こまりさんの、はらぺこ手帖。

なんでもないようなことが、しあわせなんだとおもう。

お十仙太郎

2年ぶり、コクーン歌舞伎の季節がやってまいりました。
福助さんが座長をつとめる今年の演目は『桜姫』。
串田版です。


やはり水はでます。
平場席(前半分の椅子をとっぱらって、平らな座敷にしています)から見上げると、
高い高い天井からまっすぐ降ってくる雨がちょっと怖いくらいです。


桜姫の福助さんはあいかわらずコケティッシュ。
喉がつらそうで、
あの脳天からつきぬける福助声を堪能できなかったのはすごく残念、
楽までに治るといいね。


橋之助さんは清玄と権助のふた役。
清玄よかったなあ。ものすごい苦悩してたな。


串田和美さんの解釈は、
歌舞伎のお約束ごとに対しての「どうして?」から始まっています。
それは古典を否定するのではなくて、
いやもしリアルにやったらこういうことじゃないかな、
こんな感じじゃないですか、どうですか、みたいな。
元の舞台に慣れ親しんだ人には違和感があるかもしれないけど、
物語の世界がどんどん広がってすごく興味深いです。


おもしろいといえば、やはり見逃せないのが
勘太郎・七之助のご兄弟。
前半は敵同士で、ルパンと銭形みたいに
ずっとおっかけっこしてるのが笑えるんだけど、
後半、お兄ちゃまが女役にかわり、
夫婦になってからがさらに見どころ。


仙太郎(七之助)とお十(勘太郎)、
実はこのふたりはお家再興のために長屋に潜伏している
吉田家(桜姫の家)の家臣で、偽の夫婦なのです。
姫がらみでまあいろいろなことがあるうちに、
なんとお十が売られることになってしまうのですが、
この別れのシーン。
舞台下手の仙太郎と、通路で振り返ったお十が見交わす、
そのほんの一瞬の佇まいが実に深いんですね。


ラスト、これは現実なのか姫の妄想なのか、
お家再興が叶い居並ぶ華やかな一同のなかで、
裃姿の凛々しい仙太郎と、
水色の着物で晴れやかに微笑むお十の、その並びの美しいこと。
このふたりが、偽から始まった本当の夫婦として
幸せになれたらいいのになあ、と思うと、
なおさらこれが現実であることを願いたくなってしまうのです。