こまりさんの、はらぺこ手帖。

なんでもないようなことが、しあわせなんだとおもう。

ニューヨーク・ニューヨーク

映画『SHAME シェイム』を観てきました。



SHAME -シェイム- スペシャル・エディション [Blu-ray]

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『テルマエ・ロマエ』の予告編や、
デニーロが出るヤツの
「前売り買ったらパスタ計量グッズプレゼント」に
なぜか爆笑するやけに大らかな客席が、
本編はじまってから水を打ったように静まりかえった
あの温度差、すごかったなー。



主人公ブランドンが常に眉間を寄せてて辛そうで、
観ているこちらもとにかく辛い。
気持ちが伴う相手とはフィジカルに繋がることができない彼と、
相手に過剰依存するという形でしか恋愛できない妹シシイ。
ふたりのやりとりから、
映像では解説されない兄妹の過去が
やけにすんなり浮かび上がってくるのが、また辛い。


いちばんしんどかったのは、
虫の知らせで地下鉄の駅から駆け戻ったブランドンが
マンションのエレベーターで焦れる時間のリアルさ。


地下鉄のホームで、ソファーに並んで。
繰り返される兄妹の後姿には
マーブルのように愛憎が入り乱れて、
ひととおりではとても表現できません。
シシイのヒョウ柄のコート、かわいかったな。
ブランドンが赤い帽子を被ってみせるくだりのほっこり感が、
あとの地下鉄緊急停止の場面でとてつもない不安を煽ります。


ペラッペラ上司がナンパするときの見事な会話術に対して、
レストランでマリアンにフォローされないと
すぐ滞ってしまうブランドンのおしゃべり。
ついでにそのレストランのKYなギャルソンの善人っぷり。
口下手って愛しいなと思った。


音楽の使い方も見事でした。
全編に流れるピアノの旋律もそうだし、
シシイ来襲のときの大音量のレトロボップスもだし。
ブランドンの部屋のラックに並ぶのが
レコードばかりというのも震える。
あと、あの「ニューヨーク・ニューヨーク」ね。
あの曲であんなに泣けたの初めてだ。


宣伝文句には
「妹が転がりこんで崩壊する主人公の生活」ってあったけど、
崩壊したというより、変化したんじゃなかろうか。
ヤケクソのダンシャリを試みる生命力はまだあるんだもの
(そのあとの行動はまだ伴ってないが)、
ラストの暗転後、
あの地下鉄のシートから彼が立ち上がらなかったことを
強く願いました。



それにしてもスティーヴ・マックイーンって
すごい名前だね、監督。