こまりさんの、はらぺこ手帖。

なんでもないようなことが、しあわせなんだとおもう。

マルチーの

246沿いにあるカフェにいたところ、
近くのテーブルからこんなかんじの台詞が聞こえてきます。 


男「やっぱりね、気づきが大切なんだよね」


おとなしめの女性にスーツの男性という
カップルというわけではなさそうな雰囲気の二人連れ。
スーツの男性は一種独特な弁舌をふるい、
女性たちのほうはメモをとる。


男「ね、だから○○○さん。よ〜く考えてね。
  大事なことってなんなのか。
  ○○○さんのなりたい自分ってなんなのか。
  僕たちのめざしてる場所がどこなのかってこと」


みたいな感じの、もやっとした
夢見がちなトークがえんえんと続く。


男「私はここにいます。私はあなたの友達です。
  あなたを大切に思っています。
  そういうのが先でしょ。
  すべてさ、そういう真心がちゃんと伝わってからの話でしょ」


目的語がすべて伏せ字になっているので
余計気になって聞き耳を立てていると、
最後に、


ああ、それか…


という単語がようやく耳にとびこんできます。


このテーブルを含め、
この日カフェで聞いた話がなにかとおもしろかったので
以下、たたんだ中に
無駄に書き留めておきます。





(テーブル1…大学生風の男女)


女「どうしよ〜やっぱり書けないかも〜」
男「いや書きましょうよ」
女「だいたい私、理科も数学も苦手だったから〜」
男「じゃあなんでうち来たんすか」
女「赤点ばっかりとってたから〜」
男「赤点ってウケ狙い以外で実際にあるものなんすか」


(テーブル2…きれい系の女性ふたり)


女1「でもさあ、ほんとにそれでいいわけ」
女2「だって困るもん別れられたほうが」
女1「ああ〜それはそうだね〜」
女2「ただ、ここに奥さん突然帰ってきたらどうしようとかは思うよ」
女1「ああ〜それはそうだね〜」


(テーブル3…妙齢の女性)


女「(クッキーをバリッ、ボリボリボリボリ…)」


(テーブル4…サラリーマン風の男性)


男「(携帯で)もしもーし、○○○でーす、
  もうお店はいっちゃいましたー、
  エクセシオールでーす待ってまーす」


この4組に囲まれたテーブルに座る私。
いったん気になりだすとすべての会話が気になって、
おおまかでもいいから
彼らのアイデンティティーをつかみたいという欲求が
おさえられなくなる性分。


(テーブル1)


女「やっぱり書けないかも〜私書くと思う?」
男「書きましょうよ」
女「だってほんとに理科苦手だったから〜」
男「苦手でも書いたほうがいいですよ」
女「やっぱり書かないと学費とか無駄かなあ」
男「無駄ですから書きましょうよ」
(修論を書けてない先輩女子と理系の後輩男子らしい)

(テーブル2)


女1「まだ店行ってんの?」
女2「うんときどき手伝ってる」
女1「そうだ私、明日ママんち行くよ」
女2「へえ〜いいよね」
女1「マンションの最上階なんだって」
女2「いいよねそれ」
女1「っていうか最上階全部ママんちなんだって」
女2「それだよ、だから銀座は違うよねえ」
(ウォーター美女の新年会か)


(テーブル3)


女「(次のクッキーをバリッ、ボリボリボリボリ…)」
(歯、強そうだなあ…)


(テーブル4)


男「(また携帯で)もしもーし、○○○でーす、
  2階でーすこれ聞いたら電話くださーい
  エクセシオールでーす待ってまーす」
(デートか?でもエクセ「ル」シオールだから)


気になる。気になります。
耳がどんどんさえてきます。


(テーブル1)


女「でも私〜いまから帰って書くと思えないしぃ」
男「書きましょうよ」
女「土曜日に書くとも思えないしぃ」
男「書きましょうよ」
女「日曜日に書くとも思えないじゃない」
男「もう帰りましょうよ」
(そうしましょうよ)


(テーブル2)


女1「…」
女2「…」
(あ、メールタイムか)


(テーブル3)


女「(次のクッキーをバリッ、ボリボリボリボリ…)」
(…)

(テーブル4)
男「(またも携帯で)もしもーし、あ○○○でーす、
  そうそう坂のところのね、
  エクセシオールの2階」
(だから「ル」が抜けてるって!!)


お店に入ってから1時間近くが経過。
ようやくそれぞれのテーブルに変化が。


(テーブル1)


女「ねえねえやっぱり修論さ〜」
男「書くんですか」
女「いやそれよりもさ〜」
男「なにより修論じゃないんですか」
女「年賀状書いたほうがいいかなあ…」
男「帰りますよ」
(退場。がんばってね)

(テーブル2)


女1「(携帯にでて)あ、もしもし〜もうついた〜?」
女2「どっち側いるって?」
女1「いまどっち側?…昆虫までいっちゃったって」
女2「コン…なに?」
女1「そこで待っててまみちゃんと今いく〜」
女2「どこで待ってるって?」
女1「志賀昆虫」
女2「…シガなに?」
(退場。志賀昆虫まだあるんだ)


(テーブル3)


女「(特大クッキー3枚ようやく完食)」
(退場。おなかは満足しましたか?)


(テーブル4、20代後半くらいの女性登場)


女「すみません遅くなって」
男「だいじょぶだいじょぶ〜ねえ〜
  この間どうだったおともだち」
女「あ、楽しかったっていってました!」
男「う〜んよかった〜とりあえず座っちゃって〜」
女「時間ってまだだいじょうぶですか」
男「だいじょぶだいじょぶ〜」
(合コン後の初デート…でもないか…なんだろう)


気になっていた4組のうち、
いちばん不可思議なこのテーブル。
なんだろう、この男の立ち位置…。


男「それでどうなのかなあ、その後」
女「はい、それがあんまり…」


(ホストとお客さまではないわな)


男「やっぱりねえ、○○○ちゃんはまじめすぎると思うんだよね」
女「そうなんでしょうか」


(先輩が後輩の相談にのっているのか?)


男「俺も正直あったからね、そういう時期」
女「○○○さんでもですか!?」
男「なんていうか究極、気持ちが通じないっていうの?
  こっちがいくら話してもさ、
  届かないってあるわけよ現実として」


(こういう話って飲みながらのほうが…)


女「○○○さんでもそうなら私なんて…」


(…え、メモとってる!?)


男「それ駄目。それだよ。駄目なんだよ○○○ちゃん。
  もっとアップ。アップしなきゃ。
  アップして気持ちってはじめて伝わるんだから」


(自己啓発かそれとも…)


女「アップですか」
男「そう、アップ、アップしなきゃ。
  アッパッピー!とかいってますけども」
女「…」


(…)


わからない。
話がどんなに進んでも
彼らのバックグラウンドがわからない。
どうやら、私以外のテーブルの人も
このふたりの会話にひきこまれている様子。


男「それで〜あのおともだちには
  どうするってとこまで話せたのかな?」
女「してみたんですけど、なんか…
  話してるあいだに、違うことになっちゃって」
男「だよね、そうだよねえ。
  いいんだよそれで〜。
  ぶつかってくことがだいじなんだから。
  やっぱりね、気づきが大切なんだよね」
女「えっと…はい、ははは…」


(こういう話ってこういう場所じゃないほうが)


女「でもあの…やっぱりもうすこし待ったほうが
  いいとかいうのもある…」
男「いやそれはない。それないから」
女「あるかなって思うんですよ、私の場合」
男「それはあるな。わかるわかる」


(どっちなんだ)


女「もっと、自分ががんばって、ちゃんとしてから」
男「でたよ『ちゃんと』が。
  みんないうじゃない『ちゃんと』って。
  それってなにっていう話なんだよ。
  極論いっちゃうとさ、『ちゃんと』なんてどこにもないんだよ。
  この世のどこにもね」


(急にスケールでかいな)

女「そうなんでしょうか…」
男「君はさあ、君らしくいればいいんだよ。
  特別なんだから。オンリーワンなんだからさ」


(おいおいおいおい)


女「えっと…じゃあ、もしかして」
男「うんうんうん」
女「思い切ってはっきり言っちゃったほうがいいんでしょうか」
男「うんうん、なんて」
女「私がコンサルタントやってること」


(…コンサルタント。


 なんの?
 アップしてコンサルティング。なんの?)


男「ない!それはないよ!
  さすがにないな俺なら、ない絶対」
女「え、だめですかね…」
男「ないないない、ないね絶対。ない」


(もうわかったって)

男「ね、あのね○○○さん。よ〜く考えてね。
  大事なことってなんなのか。
  ○○○さんのなりたい自分ってなんなのか。
  俺たちのめざしてる場所がどこなのかってこと」


(どこなんですか)


女「はい」
男「そういうさ、相手に対して外堀かためるっていうの、
  それって究極やっちゃいけないことなんだよ。
  それって…極論だけど、いうよ、ね、
  罪悪だと思うんだよ」
女「…」
男「あ〜ごめんごめんごめんごめん違う違うって
  ○○○さんが悪いとかいってないって。
  そうじゃなくてさ、もっとこう…
  フィッティングする方法があるってことなんだよ」


(フィッ…)


男「ライト・プレイス・ライト・タイムってやつ。
  よくいうでしょ。
  やっぱり、ハートを伝えるためには
  プレイスとタイムが大事なんだよね」


ルー大柴!)

女「プレイスとタイムですね」


(メモしなくていい!)

男「ほら、これからネタやりますってときにさ、
  先に落ちいっちゃだめじゃない。でしょ」
女「はい」
男「私はここにいます。私はあなたの友達です。
  あなたを大切に思っています。
  そういうのが先でしょ」
女「ですよね」
男「ね、そういう真心がちゃんと伝わってからの話でしょ。


  こ の 水 は 素 晴 ら し い ん で す 


  って教えてあげるのは」



…よし。帰ろう。


と思ったとたん、
同じように気がすんだらしい
付近のテーブルの2、3人が
いっせいに立ち上がったのに笑う。


今年の目標としての本数は…と続く会話をバックに
コートを羽織っていますと


男「いいね、そこまでいっちゃう?
  それ目標にしちゃう?いいなあ〜」
女「アップですからね!」
男「さすがだよ○○○ちゃん、やっぱアッパッピーだな!」


…あんたいっそおもしろいよ!