こまりさんの、はらぺこ手帖。

なんでもないようなことが、しあわせなんだとおもう。

ふたり玉の井

毎年1月に浅草公会堂で上演される
新春浅草歌舞伎は
若手の登竜門といわれています。


基本的には
年をとればとるほど偉いし上手い(例外はあります)
スーパー年功序列の歌舞伎の世界。


少なくとも、
若いというだけでちやほやされる世界ではありません。


おとうさん、おじいさんの代と一緒の大きな舞台では
当然、年齢や力量に合ったお役しかまわってこない。
そこで、ときどきこういった若手だけの場所を設けて
若い役者が普段はできない、
すこし背伸びしたお役に挑戦させてもらうのです。
背伸びしているだけに、いろんな意味でスリリングです。


最近の浅草の常連は、
男女蔵さん、亀治郎さん、獅童さん、勘太郎さん、七之助さん。
亀鶴さんもどうやら常連化してきました。嬉しい。
そして愛之助さんが帰ってきました。嬉しい。
亀治郎さんは今年は大河で忙しいので、お休みです。


この顔ぶれのぽや〜っとした雰囲気がとても好きで
ここ2、3年は「年のはじめは浅草歌舞伎」と決めていたのに
今年はあわててすべりこんだのが千秋楽の第2部。
ま、間に合ってよかった。


ひとつめのお芝居は『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』から
『渡会屋』と『大物浦』の場面。
壇の浦で死んだはずの平知盛が実は生きていて、
その最期に敵である義経に心を赦し、
幼い安徳天皇を預けたのち
大碇をつないだ綱を体に巻きつけて海へと沈んでいく、あれです。
煮えたぎるような憎しみを乗り越えて散っていく
知盛(獅童)の熱さと、
眼前に起きるできごとをひとつひとつ
静かに受け入れて包み込もうとする義経(勘太郎)の大きさと、
かよわい女性の身で最期まで幼きものを守ろうとする
典侍の局(七之助)の凛々しさ。
そして、幼くても帝のオーラを持つ安徳天皇の言葉の重さ。
演じてた子役、あれ誰だろう。迫るものがあったな。
しかし「知盛が実は生きていて」だの
「従者が実は狐だったので」だのが普通に成立してしまう
歌舞伎のフェイクパワー。楽しい!


もうひとつは『身替座禅(みがわりざぜん)』。
恐妻家でありながら、どうしても愛人に会いにいきたい色男が
家来を巻き込んで一計を企てるが、結局ばれて…
開演前のお年玉ご挨拶で物語を説明した亀鶴さんの
「まあ、歌舞伎役者にはよくあることです」
には、会場中がくずおれてました。
色男の山蔭右京に勘太郎さん。
パパやおじいちゃまの当たり役でもある難役に初挑戦。
年々色っぽくなっていってどきどきしますねえ。
でもやっぱり清潔でカワイイのがとても勘太郎テイスト。
奥方、玉の井愛之助さん。
あの麗しいらぶりんの顔が、あ、あんなことに…!
でもなー右京って、なんだかんだいって玉の井なんだよね。
怖い怖いといいながら、玉の井
怒られ、叱られ、追いかけられて掌の上。
ほんとうはちょっと嬉しいんでしょう。
…あ、よくあるって亀鶴さん、
こういう力関係のことですか(笑)。


終演後に全員揃ってのごあいさつがあり、
玉の井の拵えのまま普通に挨拶するらぶりんっていうのも
すごかったのですが、
もっとすごかったのがそのとき花道から登場した
もうひとりの玉の井


男女蔵さん。でかいよ!


どうしてもこの拵えであいさつに出たくて
第1部で玉の井を演っている獅童さんのお衣裳を借りたんだって。
両脇を玉の井に固められ、途方にくれる勘太郎右京。
それみて笑ってる七之助くん、獅童さん、亀鶴さん。


のほほんだ。


幸せな浅草歌舞伎。また来年ね。