こまりさんの、はらぺこ手帖。

なんでもないようなことが、しあわせなんだとおもう。

リトル・ティガー

寿初春大歌舞伎、夜の部。中村雁治郎あらため坂田藤十郎襲名披露です。おめでとうございます。もう、こっそりガンジーと呼ぶことができないことだけが残念でございます。やっぱり襲名はいいもんですね。今月の歌舞伎座は華やかかつ、しっとり、はんなり。ちょっと色っぽい。思えば勘三郎さんのときにはなんていうか、桜満開、っていうより打ち上げ花火ドカーン!みたいな雰囲気だったもんな。襲名する役者さんの空気を繊細に映しだしてくれるこの古い劇場がもうすぐ建てかえかと思うと寂しい。まあ、地震があるたび天井から埃が降ってくるんじゃいい加減危険なのでしかたないのであった。『伽羅先代萩(めいぼく・せんだいはぎ)』は、藤十郎さんの政岡はもちろん、いつもクールな梅玉さんのこわーい顔や、幸四郎吉右衛門兄弟の貴重な共演シーン(一瞬だったけど)などいろいろ楽しみのある演目でした。しかし、それらを凌駕する勢いだったのが千松役の中村虎之助。衝撃の初舞台です。扇雀さんのご長男、つまり藤十郎さんのお孫さん。まだ小学校1年生くらいかなあ、ちっちゃいんだこれが。背丈も手足の長さも手の大きさもとびきりかわいい、まさにいたいけな存在感なのである。にもかかわらず、あのしっかりした佇まいはどうでしょう。やっぱり、おそるべしDNAですね。あんな幼い子がじっと座っているということだけでも感動なのに、まばたきの仕方まで気持ちのいいリズム感。声も通りに通っています。鶴千代(中村鶴松)とすごろくをやる姿も、さいころを振るその手元がたまらない。おかげで、政岡のまま炊きをすっかり見逃すところでした。松島役の扇雀パパ、さぞや嬉しかろう。そして、舞台のまんなかでぽつんと死んでる千松に背中を向けてはけていくのはさぞや辛かろう。ちなみに、翫雀さんのご長男、壱太郎くんも二枚目で素敵なんですよね。パパたちと違ってすっきりした体型…いやパパたちはあの丸いところがいいんですって。藤十郎さんが屋号も山城屋に変わられて、これから西の成駒屋を支えていくのは翫雀扇雀のおふたり。あまり縁のなかった上方歌舞伎、これからはもっと観ていきたいと思いました。