こまりさんの、はらぺこ手帖。

なんでもないようなことが、しあわせなんだとおもう。

ブラザーフッド

三郷駅。初めて降りました。そして駅から徒歩15分、道は真っ暗…たどり着くまでの心細さは彩の国さいたま芸術劇場に勝るとも劣らない三郷市文化会館にて、中村勘太郎中村七之助兄弟公演を観てまいりました。年次を重ねるごとに深みを増すという理想的な縦社会が基本の歌舞伎界にあって、二十歳そこそこのご兄弟を座長に幕をあけるというのはきっとたいへんなことだと思います。だけど、さすが中村屋。初々しさと明るさのあふれた、素敵な舞台をみせてくださいました。この世で添い遂げられなかった恋人たちがつがいの蝶となり煉獄をさまよう『蝶の道行』では兄が立役で弟が女形、仲のいい夫婦が歌い踊りながら団子をつく『団子売』では弟が立役で兄が女形。とてもよく似ているところとまったく似てないところをバランスよく持つこのご兄弟は、一緒に舞台にたつと絶妙な化学反応を起こし、ほかのどんな役者の組み合わせにもだせない雰囲気を醸し出します。芸談(トーク)では、よるとさわると喧嘩をしていた子供時代の話、まんなかに境界線をひいてつま先がはみだしたと言ってはとっくみあい(勝つのは弟、やられるのは兄…)なども披露。そういうくだらない喧嘩をし尽くしたので、今、この年ごろの男兄弟には珍しいくらいの仲のよさがあるのかもしれません。ふたりの自己分析によると、人に気を遣いすぎる勘太郎さんと、興味のないことには徹底的に無関心な七之助さん、しかし共通するのは「極度のめんどくさがり」。歌舞伎役者以外になりたかったものはありますか、と聞かれた七之助くんが「一晩でスターになれるんだったらサッカー選手とかいいけど、努力はやだ」といったのがらしくて笑ったのですが、それにつづけて「努力するんだったら歌舞伎じゃないと。歌舞伎ならいくらでもがんばれる」。隣でそれをまた嬉しそうな顔で聞いてるお兄ちゃん。いいご兄弟ですねえ。ちょっと変わってるけど…。