こまりさんの、はらぺこ手帖。

なんでもないようなことが、しあわせなんだとおもう。

とれとれぴちぴち

ずいぶん前に行った大阪・なんばの「かに道楽」。
お店にはいってエレベーターに乗り、
扉がしまるやいなや電気が消えます。


なに!?とあわてそうになると、
壁と天井にぼんやりと星空が浮かび上がり、
箱のなかは一転プラネタリウムに。
そしてスピーカーからゆるゆると流れ出す、


♪とぉ〜れとぉれ〜ぴぃ〜ちぴっちぃか〜に〜りょ〜お〜り〜…


あれも相当ショッキングな経験だったが、
今月の歌舞伎座『平家蟹』は、
それよりもっと怖い蟹体験となりました。


壇ノ浦の合戦で命運尽きた平家の残党。
生き延びてしまった女たちはうら寂しい浜で細々と命をつなぎ、
またそのためには女性としての恥をしのばねばなりませんでした。


しかし上臈だった玉蟲(芝翫)は
断固としてその生き方を否定します。
源氏への恨みはすでに玉蟲の心を蝕んでおり、
床下からざわざわと這い出てくる蟹の一匹一匹に
かつての平家の武将たちの名前を呼んで語りかける
彼女の笑顔には背筋が凍ります。


その玉蟲の妹、玉琴(魁春)が、
那須与五郎(橋之助)という男と結婚するという。
この与五郎、よりによってあの壇ノ浦で扇を打ち落とした
那須与一の弟です。
玉蟲にこの縁組が許せるはずもありません。


しかし玉琴は、与五郎とともに玉蟲のすまいをたずねてきます。
一心に頭を下げる妹と義弟。
その姿についに心打たれたのか、
ふたりに優しい言葉をかけ、酒をふるまう玉蟲。
しかし。その酒にはすでに、蟹の毒がしこんであったのでした。
怖い。怖いよ。
だいたいのっけの白石加代子ナレーションで震え上がっているところに、
蟹がざわざわ。妹と義弟絶命。玉蟲嬉しそう。
また蟹がざわざわ。
ついにその蟹に誘われるように荒れ狂う波のなかへ。
玉蟲やっぱり嬉しそう。


芝翫のおじいちゃま、いろんな意味ですごすぎる…。