こまりさんの、はらぺこ手帖。

なんでもないようなことが、しあわせなんだとおもう。

理由

WOWOWで、
映画『理由』(大林宣彦監督)をやっていたので
なんとなく途中から見始めたんだけれども。


東京・荒川の高層マンションで起きた、
一家皆殺しという残忍な事件。
しかし実はこの一家は、家族にみせかけた
まったくの他人同士だった−−−。
宮部みゆき作品はなんていうか、
心にぽっかりあいたブラックホールみたいな闇を描くのが
ほんとうに上手いです。
それはこの話では、「本物」と「偽物」を並べて描くことで
その怖さをより増長しているように思えました。


『理由』にはいくつもの家族が登場します。たとえば
「片倉家の人びと」=交番に通報する少女の家族、
「石田家の人びと」=犯人と疑われた男の家族、
「宝井家の人びと」=綾子と赤ちゃんがいる家族。


この3つの本物の家族には
細くてあやういながらも芯には絆が通っていて、
この事件に遭遇したことでそれはかえって強いものになります。


では、


「砂川家の人びと」=殺された偽物の家族はどうか。
彼らがまるっきりのフェイクで
お互いになんの絆もなかったかというと、
そうは言い切れないわけですよね。
一緒に暮らすあいだに、自然に生まれてきた家族のつながり。
冷徹なはずの青年・八代祐司も、そのなかにあって
無意識にぬくもりを求めはじめていました。
けれども、ねじれているものは決してそのままの状態を保てない。
かならず大きなねじり返しがやってきます。
そうして、正しかったはずの石田が祐司を殺人へと駆り立て、
さらには、祐司にとって愛すべき存在になるはずだった綾子と赤ん坊が
彼の人生にピリオドを打つことになったのです。


いつか見下ろしてやる、と思っていたビル群のあかり。
その星空に吸い込まれていくまでのあいだ、
祐司がなにを考えていたのか。
ラストにはひとつオカルティックな謎が残りますが、
なぜかそれに少しホッとしてしまう、
読み手としての心理構造もちょっと怖いなと思ったりします。