こまりさんの、はらぺこ手帖。

なんでもないようなことが、しあわせなんだとおもう。

トゥルー・ウエスト

グローブ座にて『トゥルー・ウエスト』観劇。
あがったりさがったりしてた熱が夕方沸点に達し、
そのせいか、かえって台詞や映像が明晰に入ってきて、
不思議な体験でした。
俳優であり監督であり脚本家でもある
サム・シェパードの舞台劇。


粗野で無学な兄リ−(松岡昌宏)と、
成功した脚本家で堅実な弟オースティン(大野智)、
これに、ハリウッドのプロデューサー(手塚とおる)と
アラスカ旅行帰りの母親(木内みどり)が絡む4人芝居なのですが、
物語のほとんどは、ほぼ兄弟によるふたり芝居。
アメリカでは兄をジョン・C・ライリー、
弟をフィリップ・シーモア・ホフマンで演ったのだそうです。


旅行で留守にしている母親の家で仕事をしていた弟。
そこへ招かれざる客である兄が帰ってくる。
ところが、兄がもちだした新しい脚本の題材、
ほんとうの西部劇=トゥルー・ウエストを
プロデューサーが気に入ったことから、
弟は、兄の口述する脚本を
筆記しなければならない立場に追い込まれていく。


兄弟がお互いにもつ憧れとコンプレックス、
不在の父親に対する微妙なスタンスの違い。
あたかも「砂漠でふたりの男が追いつ追われつする」という
その脚本のごとく、
兄弟の立場はめまぐるしく入れ代わります。


あいかわらず不健康に色白なとおるちゃんが気持ち悪くていい!
ねじのとんでるおかあさん役のみどりさん最高。
そして松岡くんは、
立ってても座っててもくねくねしてるんだけど
(関節が柔らかすぎるのっだろうか)
それでいてワイルドで、色気があって、繊細。
台詞が口をついて出てくる、そこまでの「間」に
ドキドキさせられる、実におもしろい、
もっともっと観たくなる役者さんだと思います。


で、大野くん。
緻密な会話劇は、キャッチボールのできる役者同士で観たいもの。
大野くんはきちんとボールを投げ返しているのに、
その投げ返すボールが相手に届く瞬間が見えない。
彼の持つあのとてつもないポテンシャルを
妨げているのはなんだろう…と
彼の舞台を観るたび常々考えていたのだけれど、
それが「笑い屋」か「怪しい市民団体」みたいな
一部の観客のリアクションだということが
今日、はっきりとわかりました。
もったいない。実に、もったいない。


芝居は、時間をともにする客席みんなで共有するもの。
コンサートの「コール&レスポンス」とは違うということを、
若い観客にもわかってもらえたら、
役者はもっともっと健やかに伸びていくのに、と思いました。